事業はある程度の規模に達してきたが、CFOや経営企画の専任者はまだいない。 この「不在期」は、ほとんどの成長企業が通る時期です。本記事では、不在期に社長が抱えがちな負担を構造化し、採用を急ぐ前にできる現実的な打ち手を整理します。
01 / OPENING 「不在期」は、ほとんどの会社に訪れる
「そろそろCFOを採用すべきか」「経営企画を置くタイミングだろうか」 —— 売上が10億円を越え、社員が30人を越えるあたりから、多くの社長がこの問いに直面します。
そして、すぐには採用できない、というのが現実の大半です。 CFOクラスの人材は希少で、採用に半年から1年かかることも珍しくありません。 経営企画も同様に、自社の事業を理解しながら数字を組み立てられる人材は簡単には見つかりません。
その結果、ほとんどの成長企業に 「CFO・経営企画の不在期」 が訪れます。 事業は伸びているのに、それを支える管理機能は社長の手元にあるまま、という状態です。
この時期、社長は経営判断と同時に、本来CFOや経営企画が担うべき 論点の構造化 までを自分で行うことになります。 判断は積み上がる一方で、整理する時間が取れない。 気づくと、決めるべきことが30も40も棚に並んでいる —— この状態は、特定の社長の問題ではなく、フェーズに固有の構造的な問題です。
不在期の苦しさは、能力の問題ではなく、構造の問題。これを認識することが、対処の第一歩。
02 / STRUCTURE CFO不在で社長に積み上がる4つの負担
CFOや経営企画が不在の時期、社長の頭の中には次の4種類の負担が同時に積み上がります。 これらは性質が異なるため、それぞれ別の対処が必要です。
負担1: 論点の整理
「資金調達か、自己資金で耐えるか」 「子会社化すべきか、事業部のままか」 「この採用は今やるべきか、半年待つか」
これらの判断の手前には、論点を言語化する作業があります。 本来、CFOや経営企画が下準備として行うこの作業を、社長自身が頭の中で進めることになります。
負担2: 数字の作成と検証
事業計画、資金繰り、KPI設計、投資シミュレーション。 これらを意思決定可能な精度で組み立てる作業も、不在期は社長か顧問税理士に集中します。 税理士は会計の正確性は担保してくれますが、経営判断のための数字の組み立ては本来の業務範囲外です。
負担3: 専門家との対話
顧問税理士・弁護士・社労士・銀行・投資家。 それぞれと話す際の 前提整理と、回答を受けた後の社内への翻訳。 CFOがいれば自然にこなしてくれるこの役割が、不在期は全部社長の仕事になります。
負担4: 経営判断そのもの
そして最後に、社長本来の仕事である経営判断です。 ここまでの3つの負担を抱えた状態で判断をするため、判断の質ではなく、判断する余力が問題になります。 「考える時間が取れない」「決めきれない」と感じるのは、判断力ではなく、前段の負担で疲弊していることが多いのです。
不在期の社長は、本来4人分の役割を一人で担っています。
「忙しい」と「判断が遅れる」は、社長の問題ではなく、構造上の必然です。
どこから手を打つかを考える前に、まずこの構造を見える化することが大切です。
03 / PERSPECTIVE 採用は急がない、というのも選択肢
不在期に直面した社長が最初に考えるのが、「すぐにCFOを採用しよう」 という選択肢です。 ただ、この選択肢は思っているより慎重に検討する価値があります。
CFO採用が早すぎると起きる典型パターン
- 事業フェーズと CFO候補の経験軸が噛み合わず、期待値のズレが大きくなる
- 上場準備フェーズの経験者を採用したが、まだその段階ではなく、やる仕事がない状態になる
- 採用予算が圧迫され、肝心の事業投資にまわせなくなる
- 採用後すぐに「期待と違った」という相互不信が生まれる
CFOというポジションは、会社のフェーズと CFOの経験軸の相性が決定的に重要です。 「優秀な人を採れば解決する」というほど単純ではありません。
採用を急がない、という判断
「不在期を1年〜2年、意図的に持つ」という判断もあり得ます。 その間、社長が自分で論点整理をしながら、自社にとって本当に必要なCFO像を解像度高く見定める。 焦って採用するよりも、フェーズが合った人を、適切なタイミングで採用するほうが、長い目で見て成功します。
ただし、不在期を「ただ耐える」だけだと、社長の疲弊と判断の遅延が深刻化します。 不在期を、攻めの時間に変える仕掛けが必要です。
04 / PRACTICE 不在期を「整える時間」に変える3つの実務
不在期を耐え抜くのではなく、次のフェーズへの助走期間に変えるための実務的な打ち手を3つ紹介します。
実務1: 論点の「棚卸し」を月次で行う
頭の中に積み上がっている判断事項を、月に一度、書き出して整理する時間を取ります。 「決めたこと」「決めるべきこと」「判断の前提条件が揃っていないこと」の3つに分けるだけでも、 社長の頭の中の負荷は大きく下がります。
棚卸しは一人でやってもいいですが、話しながら整理する相手がいると効率が一気に上がります。 これがCFOがいる会社の最大の強みです。
実務2: 顧問専門家への「投げ方」を整える
不在期には、顧問税理士や弁護士への質問の精度が、そのまま判断の精度を決めます。 「整理された前提条件」と「閉じた問い」のセットで投げることを意識すると、 先生方からの回答の質が劇的に変わります。
これは前回の記事「顧問税理士が答えてくれない、その質問の正体」でも触れた論点です。
実務3: 「外部の整理役」を一時的に置く
CFOを採用する前段として、判断の手前を整える伴走相手を一時的に置くという選択肢があります。 顧問契約より軽く、フルタイムのCFOより安く、しかし論点整理の効果はCFOに近い形で得られます。
経営判断デスクは、まさにこの「不在期の補完役」として設計されています。 CFOを採用するまでの12〜24ヶ月を、整える時間に変えることを目的としています。
05 / SUMMARY まとめ:不在期は、必然であり、機会でもある
CFO・経営企画の不在期は、ほとんどの成長企業に訪れます。 これは社長の選定ミスや戦略不足ではなく、事業フェーズと人材市場の構造から来る必然です。
この時期を「ただ耐える」のではなく、次のフェーズへの整え期間として使えれば、 不在期は弱点ではなく、強みに変わります。
具体的には、
- 月次で論点を棚卸しする
- 顧問専門家への投げ方を整える
- 外部の整理役を一時的に置く
この3つを組み合わせることで、不在期の負担を分散し、 フェーズが合ったCFOを適切なタイミングで採用するための余白が生まれます。
経営判断デスクは、CFO代行ではありません。 CFOを採用するまでの伴走、そしてCFOが入った後も論点の交差点を整える役割として、 不在期と、その先のフェーズの両方を支える形を目指しています。